べにぢょの日記

美人とギークが好き

初恋と罪悪は同時に訪れ、恋だけが消えていった。

小学校1年生のとき、給食にレーズンパンが出た。
給食の時は、6人で班を作り、机を向かい合わせて食べる。
配膳も班ごとに行い、ゴミ箱も6人で共有して使う。


同じ班に、富田さん、という女の子がいた。
気が強くて、レーズンが嫌いだった。
レーズンパンの日はいつも、レーズンだけをゴミ箱に捨てていた。
しかしそれが先生に見つかり、やめましょうね。と通達があった矢先のこと。

うちの班のゴミ箱には、その日もレーズンが捨ててあった。
見回りに来た先生が気付き、とがめた。

「レーズンをゴミ箱に捨てたのは誰ですか?」

(富田さんじゃないかな) と皆が思った。
しかし、富田さんはとても目立つ子で、スクールカースト的に権力があった。
一方、私はカーストの最下層で、何を言われても 「・・・」 が口癖だった。
(べにちゃんのせいにしておこう) と、皆は思ったにちがいない。
そして案の定、富田さんが「べにちゃんだとおもいます!」と告げた。
私は 「・・・」 とうつむき、皆も無言で同意を表明した。


そのとき、班のリーダー的存在のトシくんが立ち上がった。

「べにちゃんじゃないとおもいます!」

トシくんは、かっこくて頭がよくて足が速くて、クラスの女子20人中19人がトシくんのことが好き!といっていいほど、モテモテの男の子だった。
私はたまたま、幼稚園がトシくんと一緒だったため、他の女子より少しだけ早く、トシくんと出会っていた。


富田さんもやはり、トシくんのことが好きだったと思う。
自分の発言を皆の前で否定され、たちまち泣きそうになった。
彼女にトドメを刺すように、トシくんは宣言した。

「ぼく、富田さんが捨てるところを見ました。」


空気が凍った。
(本当のことを言ってはいけない) 皆がそう思ったはずだ。
富田さんはついに泣きだした。皆はただ、レーズンが入ったゴミ箱を見ていた。
私は、ひたすら 「・・・」 とトシくんを見つめていた。

思いのほかこじれた事態に困惑した先生は、「次からは気をつけましょうね」とだけ注意して去っていった。
凍っていた空気が溶け、それぞれが抱くトシくんへの思いがただよっていた。


レーズンを捨てるのは、富田さんだから許される行為だった。
スクールカースト上位者の、権力の象徴だった。
強くなければ、捨てられない。では、レーズンを捨てれば強くなれるのだろうか。

一方、トシくんは、ヒーローとして、弱きを助け強きをくじくことが使命だった。
だとしたら。だとしても。


あの日、トシくんに言えなかった「・・・」。
レーズンを捨てたのは、私。
ウソつき。



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